私に贈る言葉
つまづいたって いいじゃないか にんげんだもの
相田みつを(書家・詩人)
いつ、どんな場面で発言されたか
この言葉は、書家・詩人である相田みつを(1924〜1991)が、1984年に文化出版局から出版した初の作品集『にんげんだもの』に収められた一節です。相田みつをは栃木県足利市に生まれ、若くして禅の道に触れながら、独自の丸みを帯びた書体と平易なことばで「いのちの詩」を書き続けました。
しかし、その道のりは決して順風満帆ではありませんでした。書と詩を融合させた独自のスタイルは、長い間世間に受け入れられず、作品はほとんど売れない不遇の時代が何十年も続きました。初の著書『にんげんだもの』が出版されたのは、実に相田が60歳のときです。この詩集がミリオンセラーとなり、一躍その名が全国に知られるようになりました。
「つまづいたって いいじゃないか にんげんだもの」という言葉は、まさに幾度もつまづきながら歩み続けた相田自身の半生から紡ぎ出されたものだったのです。晩年、病と闘っていた歌手の美空ひばりさんがこの詩を知り、深く心に留めていたというエピソードも広く知られています。病床にあっても「にんげんだもの」という言葉に支えられていた──そのことが、この詩の持つ力の深さを物語っています。
言葉の意味
この詩は、わずか十数文字の中に、人間の弱さへのあたたかい肯定が込められています。
「つまづく」とは、失敗すること、挫折すること、思い通りにいかないこと。仕事で大きなミスをした日、人間関係がうまくいかない日、自分の無力さに打ちのめされた日──人は誰しも、人生のどこかで足をとられ、転びそうになります。
そんなとき、「つまづいてしまった自分はダメだ」と自分を責めがちです。しかし相田みつをは、「いいじゃないか」と語りかけます。完璧でなくていい、弱くていい。なぜなら「にんげんだもの」。人間とはそもそも不完全な存在であり、つまづくことは恥ずかしいことでも、特別なことでもない。それこそが人間として自然な姿なのだ──と、この詩は伝えています。
相田みつをは禅の教えを深く学んだ人でした。ありのままの自分を受け入れること、不完全であることを許すこと。その禅的な思想が、やさしい日本語と独特の書によって、誰の胸にも届く形で結晶したのがこの言葉です。
私に贈るメッセージ
この記事を読んでくださっているあなたも、もしかしたら今、何かにつまづいているところかもしれません。思うようにいかない仕事、すれ違ってしまった大切な人との関係、理想と現実のギャップに苦しむ日々。そんなときほど、私たちは「自分だけがうまくいっていない」と孤独を感じてしまうものです。
でも、相田みつをが教えてくれるのは、つまづくことは人間である証だということ。60歳まで世間に認められなかった相田自身が、何度も何度もつまづきながら書き続け、やがてその言葉が何百万もの人の心に届きました。
大切なのは、つまづかないことではなく、つまづいた後にもう一度立ち上がること。そして、つまづいた自分を「それでいいんだよ」と許してあげることではないでしょうか。
「にんげんだもの」──この五文字を、どうか心のお守りにしてみてください。完璧じゃない自分を、少しだけ好きになれるかもしれません。
